ヒュウガ・ウイルス

このエントリーを含むはてなブックマーク September 27th, 2008 | posted in sense-of-crisis, philosophy, book, quote |

Amazon.co.jp: ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界 2 (幻冬舎文庫): 村上 龍: 本

アメリカ人ジャーナリスト、キャサリン・コウリーが、地下日本国(アンダーグラウンド)の住人、サカグチ夫人に質問する。

「他の場所やよその国へ旅行をしてみたいと思うことはないのですか?」
「行ってみたいと思います。でも、すべてのことを実現できるわけではありません、一番に大切なことを実現して、他はその後です」
「一番に大切なこととは何ですか?」
「自分が一番大切に思う人間と共に、その日を生き延びることです」
「二番に大切なことは何ですか?」
「大切なことを、それを知らない人に伝えることです」

「誰に伝えますか?」
「息子に伝えました、必要があればもっと他の人にも伝えます」
p.44-45

フリーマーケットについて

オサカ・フリーマーケットは、キズ、アジという二つの川が交わる寺院区と呼ばれる地区を中心としている。二本の川によって、それぞれ東、西、北、南という区分けがされているが、それはある商店や問屋の所在を示すだけで、フリーマーケットの構造とは余り関係がない。華僑の指導者達は人種や国籍や宗教によって地区を分割するのを避けた。フリーマーケットは中心から外に、それぞれ寺院区、倉庫区、商店区、住居区という区分になって、それぞれの区にはあらゆる人種が混在している。従って小さなもめ事や犯罪は日常的に起きるが、大きな紛争が発生することは少ない。たとえばユダヤ人がヒスパニックを、あるいはイスラム教徒がヒンズー教徒を襲撃・焼き討ちしようとすれば、すぐ隣の味方の住家も燃えてしまうからだ。子供達は同じ学校へ通い、フリーマーケットの公用語である英語を学ぶ。新しく住人になったベトナム人が隣に住む中国人に固形燃料を分けて貰ったりする。人種の混在を指導したのはクン・マニアという中国人華僑である。
p.94-95

Amazon.co.jp: 堕落論 (新潮文庫): 坂口 安吾: 本

人間が弱い生き物であることについて

「ウイルスはタンパク質を作れるのだ、外部からわれわれのからだに入って害をなす生物・無生物の中で、タンパク質を作り出せるのはウイルスだけだ、しかもウイルスは人間の細胞の中で、人間の細胞の部品とエネルギーを借りて作る、そのタンパク質が脳や脊髄で作用すればどんなことが起こっても不思議ではない」
 なんで人間はそんなに弱いんだ、とポール・フランコが聞いた。
「弱くてもろい部品が精密に作動するから生物は進化した、われわれのからだを構成する分子は脆くて壊れやすいつながり方でつながっている、だから化学反応が可能で、全体として信じられないような生体のシステムが生まれた、強い結合で結ばれれば鉱物になってしまう、鉱物は何億年経ってもほとんど変化がない、人間は柔らかい生き物だ、その柔らかさ、脆さ、危うさが人間を人間たらしめている
p.182

ウイルスについて

試験管を自分で持って、恐らく一ccに満たない血を眺めながら、コウリーは、一滴の血の中に五十億のウイルスがいる、というオクヤマの言葉を思い出した。非常に神秘的な気がした。目に見えないところで確実に何かが起こっている、百万分の一ミリの世界でウイルスと免疫系が戦いを続ける、ウイルスは増殖によって生きのびようとする、免疫系はそれを阻止しようとする、何のためにこんな遺伝子だけの、細胞も持たない生物が存在するのだろうか?
ウイルスは結果的に進化を触媒する
 オクヤマはそう答えた。
「DNAはかなり安定的で、RNAへの転写にもほとんどミスがなく、たまにミスがあっても修復する機能まで持っている、DNAが不変のものだったら生物は変異しない、突然変異は、ほとんどの場合それが起こる種にマイナスに働く、DNAが放射線や紫外線などで損傷を受けた場合、遺伝子が染色体上でジャンプしてしまった場合、いずれも重い障害となって現れ生物を衰弱させる、ただ生き残る上で何らかのメリットがあるという数少ない例外がある、海の中では大型の魚に補食されてしまう小さな魚たちが陸地に近い干潟に逃げ込んでいる状況を想像してみよう、長い長い年月の間にえら呼吸から肺呼吸へと遺伝子が変異した個体が現れる、その個体数の多い種が地上へと進出することができた、海の中でそんな変異が起これば生きていけないが、海にいては危険な種にとっては好都合だった、進化というのはたかだかそういうものだ、海にいて常に危険を感じていた種が突然変異の助けを結果的に借りて陸に上がり陸上脊椎動物の祖となった、海で何の危険もなかった大型魚の代表シーラカンスは二億年前と同じ姿で泳いでいる、ウイルスは、生物から生物へ、つまり植物から昆虫へ、昆虫から動物へ、動物からヒトへ、そしてもう一度元の場所へと目まぐるしく移動する、それは、遺伝子とタンパク質だけでできているウイルスだけに可能なことだ、そういうウイルスの存在は、生物界の遺伝子のプールを多様で流動的にしておくために貴重なものだ、地球が、人間の住めない環境になった時には、次の主役の誕生にきっとウイルスが手を貸すことだろう、ウイルスには悪意も善意もない、結果的に、触媒の役目を果たしているだけだ
p.213-215

Amazon.co.jp: 利己的な遺伝子 < 増補新装版>: リチャード・ドーキンス, 日高 敏隆, 岸 由二, 羽田 節子, 垂水 雄二: 本

最優先事項と行動原理について

コウリーは行動を共にしてきて彼らのことが少しずつわかってきた。以前だったら、ミツイのことをどう思うか、と他の兵士に聞いたかも知れない。ずっと一緒に戦ってきた仲間の一人がからだ中から出血して死にかけている時、それを悲しいと思わない兵士はいない。彼らは深く悲しんでいる。だが、悲しいとは言わないし、悲しい表情も作らない。悲しい悲しいと叫び大声で泣くことによってミツイが助かるならば彼らはそうするだろう。UG兵士はシンプルな原則で生きている。最優先事項を決め、すぐにできることから始め、厳密に作業を行い、終えると次の優先事項にとりかかる。悲しい時にただ悲しい顔をしていても事態の改善はないことを彼らは子供の頃から骨身に染みて学んできたのだ。アメリカのテレビでのおなじみの光景、災害や事故や犯罪の現場でレポーターが被災者や被害者の家族に聞く、悲しいですか? 悲しいでしょう? 最優先事項がなく退屈な人々はそれを見て今自分が悲しくないことを確認して安心する。
p.237

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