五分後の世界(もう一つの日本)
村上龍『五分後の世界』の重要な部分を引用する。
紹介
オレはジョギングしていたんだ、と小田桐は意識を失う前のことを思った。だが、今は硝煙の漂うぬかるんだ道を後進していた・・・・・・。五分のずれで現れたもう一つの日本は、人口二十六万に激減し地下に建国されていた。駐留する連合国軍相手にゲリラ戦を続ける日本国軍兵士たちーー。戦闘国家の壮絶な聖戦を描き、著者自ら最高傑作と語る衝撃の長編小説。
ゲリラの本質
死なないようにとそれだけを考える、つまり生きのびることだけを考える、それがどういうことかわかるかね?
それがゲリラの本質だ
p.150
戦い続ける理由
理由は一つだよ。ひとつで十分なのだ、わたしの父はニューギニアの戦線から戻ってきた、歩兵二百三十八連隊だ、父も含めて、ニューギニアやガダルカナルやビルマで闘った兵士達は、日本の歴史が始まって以来、もっとも苦しみ、もっとも貴重な情報を得た人々だ、彼らは、兵士として、海外とかかわった、外交使節団やわずかな商社員、ひとにぎりの留学生を除いて具体的に海外とかかわったのは有史以来彼らが最初なのだ、無知だったために戦争犯罪もあった、だが、彼らは、戦闘どころか、生存さえも困難な状況で戦い続けた、そうやって彼らが得た情報をムダにすることは許されない、いいか、絶対に許されないのだ、その民族が生きのびていくためには次の世代に大切な情報を確実に伝えていかなくてはならない、選択の余地はなかった、彼らが得た貴重な情報を正確に伝えるためには、戦い続けるしかなかったのだ
p.159
国民学校小学部六年教科書『社会』
全世界はいまや混乱と、迷いの時代にはいっています。武力紛争、内乱、きが、環境破壊、差別、かぞえきれない問題がいたるところで起こっているのです。国連はもちろんのこと、どの国も次の時代に向けての、新しい価値観をつくり出していません。
しかし、大切なのは価値観や目的意識ではありません。ここが、われわれ日本国とアメリカの最大のちがいです。もっとも重要なのは、生きのびていくこと、生存そのものです。われわれ日本国が戦争を通じて学んだのは、まさに、そのことでした。
生きのびていくために必要なものは、食料と空気と水と武器、そういうものだけではありません。勇気と、プライドが必要です。
すべての差別は、勇気とプライドのないところに、世界に向かって勇気とプライドを示そうという意志のない共同体の中に、その結束と秩序を不自然に守るためにうまれるものです。
これからもこの地下の中から世界にむけて、われわれの勇気とプライドを示していかなくてはいけません。敵にもわかるやりかたで、世界中が理解できる方法と言語と表現で、われわれの勇気とプライドを示しつづけること、それが次の時代を生きるみなさんの役目です・・・・・・・・・・
p.144-146
世界的ダンサー
あの少女はアンダーグラウンドに住む日本人のプライドをもって、もちろん楽しみながらダンスの訓練を自分に課してきた、あっちの世界の盆踊りとか阿波踊りとか郷土芸能といわれているものの反対側に位置するダンスだ、・・・・・・・・・敵にもわかるやりかたで、世界中が理解できる方法と言語と表現で、われわれの勇気とプライドを示しつづけること、それが次の時代を生きるみなさんの役目です・・・・・・・・・・・・子供達は教科書を実行してきたのだ
p.179


1 Trackback(s)