■コールドリーディングという説得術
宗教家や占い師が何の準備もなしに初対面の人の性格や悩みを言い当て、過去から現在、そして未来を読むことを指します。(略)コミュニケーションの中で「性格や悩みを言い当てられたと思わせ」「相談者の過去・現在・未来を透視できるかのような印象を与える」技法、そしてその結果として他社を説得し誘導する技術をコールドリーディングと呼ぶようです。(p.28)
経済に関する多くの議論はこれと似たり寄ったり。つまり、言説の内容ではなく、それ以外の要素で我々は説得されてしまっている。それに気付き、対策すべきと著者は言う。
■「常識」化した言説の力
ある言説が支持されるようになるまでには、必ず「納得する」というプロセスを経ます。そしてひとたび自分の心の中で「Xは正しいんだなぁ」と納得したものを否定されるのは、誰にとっても不愉快な経験です。(p.41)
その通り。しかし、それが出来ない人間は、成長しない。成長とは、現状の自己を否定することである。その痛みが大きいほど、成長するのだ。
■解釈型言説のチェック法
【チェックポイント1 定義の誤解・失敗はないか】
【チェックポイント2 無内容または反証不可能な言説】
【チェックポイント3 難解な理論の不安定な結論】
【チェックポイント4 単純なデータ観察で否定されないか】
【チェックポイント5 比喩と例話に支えられた主張】(p.79)
これら5つのチェックに合格しない言説は「ダメな議論」であると。
■政策提言を評価する際の留意点
100%正しい解釈を得ることは不可能に近く、必ず成功する政策もない(p.81)
「その対策が誤りだったときにどうするか」という視点が大きな意味を持ちます。(p.81)
失敗してもたいしたダメージにならない政策提言については、「とりあえずやってみたらどうだ!」と考えられるのです。(p.81)
失敗の可能性が皆無ではない対策を実行するときにもう一つ必要なのが、コンティンジェンシープランの有無という視点です。(p.82)
†虚無論法
提言型の言説に対してしばしば寄せられるのが、「その政策によってすべての問題が解消されるわけではない」という批判です。(p.103)
その通りだ。「俺のほうが正しい」という議論に意味は無い。実践者としての姿勢が伴わない議論に意味は無い。言葉を弄することに堕するのみ。
†アンケート調査の問題点
定義が明確でない日常用語をキーワードにした論説では、アンケート調査の結果がしばしば援用されます。しかし、アンケート調査は多くの問題を抱えています。最大の問題は、ほとんどのアンケート調査では「本当のことを答えるインセンティブ」が保証されていないことにあります。(p.124)
まさに。このブログでもたびたび批判しているが、統計リテラシの欠如したレポートが多い。
†「財政ハルマゲドン」は本当か?
ある国の経済は、政府部門・企業部門・家計部門から成ります。(略)途上国などの財政危機では、日・米・欧など海外の経済主体が「貸してくれる人」だったため、「財政赤字=国の借金」のようなイメージができあがってしまいました。しかし、日本政府の場合にはずいぶんと事情が異なります。国債の60%は、郵貯・簡保・財政投融資・政府系金融機関・日本銀行による保有です。続いて30%は民間の金融機関に保有されています。郵貯・簡保、民間の金融機関に預貯金をしている(つまりはお金を貸している)のは家計です。政府系金融機関は郵貯・簡保からお金を借りているため、最終的な資金の元はやはり家計です。このように考えると、日本の累積財政赤字は「政府部門の借金(債務)であり、民間部門の、特に家計の資産(債権)」であることが分かります。(p.151)
日本の借金とは、海外からの借入から海外への貸し付けを引いたものになります。これを統計用語では対外純負債と呼びます。日本の海外純負債はマイナス185兆円(2004年末)、つまりは対外純資産が185兆円ある状態です。つまりは、日本経済は海外に「お金を貸している側」なのです。いまや日本の所得収支黒字(対外資産からの収益)は貿易・サービス収支黒字に匹敵する額になっています。(p.152)
これは知らなかった。覚えておこう。(時間がある人はみずからデータを確認して裏付けるとよいだろう)
†創造的破壊論は現実的か?
シュンペーター的な創造的破壊の理論に従うと、不況によって非効率な企業がつぶれ、労働や資本などの資源が新たな産業へと向かう結果、次の好況が生まれることになります。この考え方には「不況が起きると非効率的な企業から倒産する」という前提が必要です。しかし、現時点での生産性が低くても歴史のある企業は借入が少なく、金融面でも銀行からの融資といったサポートを受けやすいということを忘れてはいけません。一方、新しい事業に参入したばかりのベンチャー企業ほど、こうした財務基盤が貧弱なため、不況の初期に淘汰されてしまいがちです。その結果、不況は新産業の勃興を阻害することになると考えられます。創造的破壊の議論は、いつでも成立するようなものではないのです。実証的にも米国・日本のデータによって、想像的破壊の議論への反論が行われています。
これも目からウロコの指摘だ。たしかに、そういう面はあるだろう。これも時間がある人はデータで裏付けるとよいだろう。
■まとめ
いちど信じた「常識」を疑うことは大事だ。なぜなら、それは妄想に過ぎないのだから。
少しでも妥当な選択を出来るように、賢くなろうじゃないか。
■補足
属人論法の愚かさについて。
議論の参加者、あるいは傍観者としての私は、この批判に大賛成である。しかし決断者、そして責任者としての私は、属人論法を切り捨てられない。なぜ我々が属人論法、すなわち「何を言ったか」よりむしろ「誰が言ったか」を気にするかといえば、その属人性こそがその言葉の担保となることが多いからだ。外れても制裁のないconclusionと、外れたら制裁が待っているcommitmentでは、やはり重さが違うではないか。
そうなのだ。飯田氏の言説にしても、鵜呑みにせずに自分でデータをあたって検証する。そういう態度を飯田氏は求めたいのだろう。しかし、我々は忙しい。すべての点において賢くなることを時間が許さない。ゆえに我々は専門家を頼り、属人論法に陥る。この構造的問題に「銀の弾丸」は無い。
そこで、あなたはどう考えるか?
「ならば属人論法でいいじゃないか」というのは虚無論法だ。翻訳すれば「馬鹿野郎」だ。
できる限り「自分の頭で考える」という姿勢を貫くこと。この不断の努力が必要。社会に対して責任を果たそうとする成人の姿勢として。
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